矯正用ワックスの使い方|はがれにくい付け方と、寝るとき・マウスピース矯正での注意点
「ブラケットが頬に当たって痛い」
「ワイヤーの端がチクチクして、口内炎ができそう」
装置を付けたばかりの頃や、ワイヤーを調整した後に、このようなご相談をいただくことがあります。
先にお答えすると、装置が頬や唇にこすれて痛いときは、当たっている装置を矯正用ワックスで覆うと、こすれが和らぐことがあります。

ワイヤー矯正の装置: ブラケットやフックなどの出っ張りが、頬や唇の内側に触れることがあります。
一方で、ワイヤーが頬に刺さっている、装置が外れている、口内炎が数日たっても軽くならないといった場合は、ワックスで様子を見続けず、医院へご連絡ください。
当院では、ご希望の方に矯正用ワックスを無料でお渡ししています。この記事では、はがれにくい付け方、寝るときや食事のときの扱い、マウスピース矯正での使い方、そして「ワックスで様子を見てよいとき」と「連絡してほしいとき」の目安をまとめます。
まず知っておきたい4つのこと
- ワックスが和らげるのは、装置が頬や唇にこすれる痛みです。歯が押されるような痛みには効きません
- はがれにくくするコツは、装置を乾かしてから押し当てることです
- 寝るときは付けたままで構いません。食事と歯みがきの前には外します
- マウスピース矯正でも、縁やアタッチメントが当たるときの応急処置として使えます
矯正用ワックスは、装置と粘膜の間のクッションです
矯正用ワックスは、指で形を変えられるやわらかい保護材です。ブラケットの角、奥歯の装置から出たワイヤーの端、ゴムを掛けるフックなど、口の中で出っ張っている部分を覆い、頬や唇の内側との摩擦を減らします。薬ではないため、口内炎そのものを治すものではありません。

ワックスの役割: 左はブラケットの角が頬の内側にこすれている状態、右はワックスで角を覆った状態の模式図です。装置の形や当たる場所は人によって異なります。
装置による頬や唇の傷は、ブラケットとワイヤーを使う矯正治療では珍しいことではありません。こうした固定式装置で治療中の161人を調べた調査では、75.8%が装置による小さな傷を経験していました。一方、潰瘍に強く悩んだと答えた方は2.5%でした(参考資料1)。複数の研究をまとめた系統的レビューでも、装置による口の中の傷としては、潰瘍・びらんが最も多いと報告されています(参考資料2)。装置を付けてから24時間後には、口内炎や痛み、食事のしにくさなどの訴えが装着前より増えていたという報告もあり、傷は装置を付けた直後から起こりえます(参考資料3)。
ワックスを使う場合と使わない場合を直接比べた臨床研究は、確認できた範囲では見当たりません。それでも、米国矯正歯科医会(AAO)は患者向けの情報で、装置が頬や唇にこすれるときや、ワイヤーの端が当たるときの対処として、ワックスで覆う方法を紹介しています(参考資料4、5)。当院でも、痛みの原因になっている出っ張りを覆う応急処置として、ワックスをご案内しています。
ワックスが効く痛み、効かない痛み
矯正中の痛みには、大きく分けて2種類あります。
- 装置が粘膜にこすれる痛み: ブラケットやワイヤーの端が当たる場所がヒリヒリする、口内炎ができる。ワックスで覆うと和らぐことがあります
- 歯が押されるような痛み: ワイヤーの調整やマウスピースの交換の後に、歯が浮いたように感じる、噛むと響く。歯が動くときに起こる反応で、ワックスでは和らぎません
歯が押されるような痛みについては、痛み止め(鎮痛薬)で和らぐことが、複数の臨床試験をまとめた系統的レビューで示されています(参考資料6)。服用する場合は製品の用法・用量を守り、持病がある方、ほかの薬を飲んでいる方、妊娠中の方などは、医師・薬剤師または当院にご相談ください。
はがれにくい付け方
付ける前に手を洗い、鏡でどの装置のどの部分が当たっているかを確かめておくと、少ない量で済みます。

付け方の4ステップ: 図は前歯で示していますが、奥歯でも手順は同じです。
- 小豆くらいの量をちぎり、指先で丸めます。 数秒丸めると体温でやわらかくなり、形を作りやすくなります。
- 当たっている装置の水分を拭き取ります。 唾液で濡れたままでは付きにくいため、ティッシュやガーゼで装置の表面を軽く押さえて乾かします。
- 装置の上から、包み込むように押し付けます。 装置のすき間に少し入り込むように押すと、はがれにくくなります。
- 表面をなでてなめらかにし、当たらないか確かめます。 指や舌で表面を整えたら、頬や唇を動かして、まだ当たる場所がないか確認します。
すぐにはがれてしまうとき
- 装置が濡れている: いったん外し、装置をもう一度乾かしてから付け直してください
- 量が足りない: 装置を包み込めていないと、端からはがれやすくなります。少し足して覆い直します
- 何か所も当たる: 一度に広く付けるより、特に痛い場所から1か所ずつ付けるほうが安定します
寝るとき・食事・歯みがきのときの扱い
寝るときは、付けたままで構いません
当院では、寝るときもワックスを付けたままで構わないとお伝えしています。眠っている間も頬や唇は装置に触れているため、痛みがある時期は付けたまま休んでください。朝は歯みがきの前に外し、まだ当たる場合は新しいワックスを付け直してください。
食事の前には外します
付けたまま食事をすると、食べ物と一緒に噛んでしまったり、はがれたかけらを飲み込んだりしやすくなります。食事の前に外し、食後に歯みがきをしてから新しいワックスを付けてください。
歯みがきのときも外し、新しいものに替えます
ワックスと装置の境目には、時間がたつと食べかすや汚れが残りやすくなります。外したワックスは使い回さず、歯みがきの後に新しいものを付けます。
ワイヤー矯正は装置の着け外しが不要ですが、歯みがきまで不要になるわけではありません。ワックスを使っている時期も、歯を守るための毎日のケアはいつもどおり必要です。
はがれて飲み込んでしまったとき
小さなかけらを飲み込んでしまっても、通常は心配いりません。気づいたら、新しいワックスを付け直してください。
むせ込みが続く、息苦しい、呼吸のたびにゼーゼーするなど、気管に入った可能性がある症状があるときは、すぐに医療機関を受診してください。
マウスピース矯正でも、応急処置として使えます
マウスピース型の装置は歯を覆う形をしているため、ワイヤー矯正のような出っ張りはあまりありません。ただ、新しいマウスピースに交換した直後に縁が歯ぐきや頬に当たったり、マウスピースを外している間に、歯に付けたアタッチメント(小さな突起)が唇の内側に当たったりすることがあります。
当院では、このような場合は次の来院までの応急処置として、ワックスを使って構わないとお伝えしています。英国矯正歯科学会(BOS)の患者向け資料でも、マウスピースの縁が当たるときに唇を守る方法として、ワックスが挙げられています(参考資料7)。当たりが続く場合は、来院時にマウスピースの縁を調整しますので、お知らせください。

マウスピース矯正での使い方: 縁が当たるときは縁の外側に、アタッチメントが当たるときは外している間だけ付けます。ワックスはマウスピースの内側に入れないでください。
- 縁が当たるとき: 当たっている縁の外側(頬や唇に触れる面)に、小さく薄く付けます。食事でマウスピースを外すとワックスも一緒に取れるため、食後に歯みがきとマウスピースの洗浄をしてから付け直します
- アタッチメントが当たるとき: マウスピースを外している間だけアタッチメントに付け、マウスピースを着ける前に取り除きます
ワックスがマウスピースの内側(歯に触れる面)に入り込むと、マウスピースが歯にぴったり収まらず、歯を動かす力が計画どおりにかからなくなるおそれがあります。付け直すときも、内側に残っていないか確認してください。
ワックスで様子を見てよいとき、連絡してほしいとき
ワックスで様子を見てよいとき
- 装置を付けた直後や、ワイヤーの調整・マウスピースの交換の後に、装置が頬や唇にこすれる
- 小さな口内炎があるものの、ワックスで当たりが和らいでいる
ワックスで済ませず、ご連絡いただきたいとき
- ワイヤーの端が伸びて頬に刺さる、奥歯の後ろに飛び出している
- ブラケットや奥歯の装置が外れた、ぐらぐらする
- マウスピースが割れた・欠けた、または同じ場所に当たり続ける
- ワックスで当たりを和らげても、口内炎の痛みが数日たっても軽くならない
- 口内炎が2週間ほどたっても治らない、大きくなる、数が増えている
- 痛みで食事がとれない、腫れや発熱がある
ワイヤーが刺さっている場合は、ご自身で切ったり、無理に曲げたりせず、先端をワックスで覆ってからご連絡ください。当院に通院中の方は、お電話(092-724-1212)でご相談ください。
「2週間」は、そこまで我慢して待つという意味ではありません。 日本口腔外科学会の一般向け案内では、口の粘膜の傷などによる痛みが3〜4日で軽くならず続く場合は、診察を受けるよう勧めています(参考資料10)。強い痛みや装置の破損は、日数にかかわらず早めにご相談ください。
口内炎が2週間ほどたっても治らないときは、装置による傷以外の原因がないかを確かめることも必要です。国立がん研究センターや大阪府医師会の一般向けの情報でも、2週間たっても治らない口内炎は、注意や受診の目安として挙げられています(参考資料8、9)。
ワックスが手元にないとき
当院では、ご希望の方に矯正用ワックスを無料でお渡ししています。来院時に受付または担当医へお声がけください。
市販品を使う場合は、矯正用として販売されているものを選び、製品の説明書に沿ってお使いください。
治療内容・期間・費用・主なリスク
以下は、当院で行うマウスピース矯正とワイヤー矯正の概要です。料金は2026年9月29日に公式料金ページで確認しました。治療内容や料金は変更される場合があるため、ご契約前に最新情報をご確認ください。
装置ごとの通院頻度・標準的な対面通院回数
マウスピース矯正では、患者さんご自身で定期的に新しい装置へ交換していただくため、対面通院は通常2〜5か月に1回です。動的治療期間中の標準的な対面通院回数は5〜15回です。
ワイヤー矯正では、歯科医師によるワイヤーの調整が必要になるため、対面通院は通常月1回です。動的治療期間中の標準的な調整通院回数は12〜36回です。
ここでいう回数は、歯を動かしている動的治療期間中の対面通院を指します。初診カウンセリング、精密検査・診断、治療後の保定期間中の通院は含みません。実際の回数は、歯並び、治療範囲、歯の動き、治療経過、追加処置などによって異なります。
マウスピース矯正の治療内容
マウスピース型カスタムメイド矯正装置を1日20時間以上(目安)装着し、通常は1〜2週間ごとに新しい装置へ交換して歯を移動させます。装着時間、交換時期、装置枚数は患者さんごとに異なります。
ワイヤー矯正の治療内容
歯にブラケットとワイヤーを装着し、原則として月1回調整しながら歯を移動させます。歯並びや治療目標により、抜歯、顎間ゴム、IPR、アンカースクリューなどを併用することがあります。
標準的な治療期間
- マウスピース矯正:概ね6か月〜2年
- ワイヤー矯正:概ね6か月〜2年
歯並び、治療範囲、歯の動き、装着状況、治療経過、計画変更などによって延長することがあります。
標準費用
矯正治療は原則として自由診療です。当院では、マウスピース矯正とワイヤー矯正に同じ料金体系を適用しています。
- 初診カウンセリング:無料
- 精密検査・診断料:33,000円(税込)
- 成人の装置代:495,000円〜990,000円(税込)
- 受診ごとの処置料:4,400円(税込)
- 保定装置料:55,000円(税込)
適用される費用は治療計画によって異なります。最新の条件と総額は、契約前にお渡しする見積書と当院の料金ページでご確認ください。
共通する主なリスク・副作用
- 治療中に痛みや違和感が生じることがあります
- 歯の動きや装置の使用状況によって、計画どおりに歯が動かず、治療期間が延びる可能性があります
- 歯の動きに応じて、追加の装置や補助処置、治療計画の修正が必要になることがあります
- 虫歯、歯肉炎、歯周組織の変化、歯根吸収、歯肉退縮などが生じる可能性があります
- 治療後は後戻りを抑えるため、保定装置の使用が必要です
- 治療結果や治療期間には個人差があります
法令上必要な情報(使用する装置について)
当院で使用するインビザラインは、患者さんごとに海外で作製されるマウスピース型カスタムメイド矯正装置です。完成物は日本の薬機法上の医療機器に該当せず、薬機法上の承認を受けた医療機器ではありません。米国アライン・テクノロジー社の製品を、インビザライン・ジャパン社を通じて入手しています。国内には薬機法上の承認・認証を受けた矯正用材料・装置もあります。米国ではInvisalign SystemがFDAの510(k)手続を受けていますが、米国での判断は日本国内での承認を意味しません。完成物は医薬品副作用被害救済制度の対象外です。主なリスク・副作用は前項をご確認ください。
治療中の痛みや生活の不安も、始める前に相談できます
矯正治療を検討している方の中には、「痛みに耐えられるか」「装置が当たって話しにくくならないか」と心配される方もいらっしゃいます。痛みや違和感の出方は、装置の種類、歯並び、治療の段階によって異なります。
当院の初診カウンセリングでは、ワイヤー矯正とマウスピース矯正のどちらを選ぶ場合も、治療中の生活で起こりやすいことを含めてご説明します。装置の選び方は、マウスピース矯正が向いている人・向いていない人でも解説しています。
参考資料
- Kvam E, Gjerdet NR, Bondevik O. Traumatic ulcers and pain during orthodontic treatment. Community Dent Oral Epidemiol. 1987. PubMed
- El-Haddad SAE, et al. Orthodontic Appliance Associated Oral Lesions: A Systematic Review and Meta-Analysis of Clinical Prevalence, Onset, and Contributing Factors. Oral Dis. 2026. PubMed
- Mansor N, Saub R, Othman SA. Changes in the oral health-related quality of life 24 h following insertion of fixed orthodontic appliances. J Orthod Sci. 2012. PubMed
- American Association of Orthodontists. What is an Orthodontic Emergency and How Do You Handle Them? AAO
- American Association of Orthodontists. Do Braces Hurt? Your Comprehensive Guide to Managing Orthodontic Pain. AAO
- Monk AB, et al. Pharmacological interventions for pain relief during orthodontic treatment. Cochrane Database Syst Rev. 2017. PubMed
- British Orthodontic Society. Advice if you are being treated with Clear Aligners but unable to attend for your routine check during the COVID19 pandemic. 2020. BOS
- 国立がん研究センター. 口腔がんの原因・症状について. 国立がん研究センター
- 大阪府医師会. 口内炎(げんき情報). 大阪府医師会
- 日本口腔外科学会. 口の粘膜が痛い・ヒリヒリする(口腔外科相談室). 日本口腔外科学会
この記事の執筆者
福岡MA矯正歯科 院長・矯正歯科医 南舘 崇夫
本記事では、矯正用ワックスの付け方と、寝るとき・食事・マウスピース矯正での扱い、医院へ連絡してほしい状態について、当院で患者さんにお伝えしている内容をまとめました。
資格:
- 博士(歯学)
- ヨーロッパアライナー矯正歯科学会 認定医
経歴・専門教育:
- 九州大学大学院歯学府 歯学専攻 博士課程修了(専攻分野:口腔保健推進学/教育領域:歯科矯正学)
- 九州大学病院 矯正歯科 勤務
院内案内の確認:2026年9月29日
この記事の院長インタビュー・医学監修

福岡MA矯正歯科 院長・矯正歯科医 南舘 崇夫
本記事は南舘院長へのインタビューと院内症例の確認をもとに編集し、南舘院長が医学的内容を最終確認しています。
資格
- 博士(歯学)
- ヨーロッパアライナー矯正歯科学会 認定医
経歴・専門教育
- 九州大学大学院歯学府 歯学専攻 博士課程修了(専攻分野:口腔保健推進学/教育領域:歯科矯正学)
- 九州大学病院 矯正歯科 勤務
最終医学確認:2026年9月30日
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